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幻想俯瞰飛行

生存記録を兼ねて長文を書くためのブログ。文章読んだり書いたりします。 

近況等、ミステリーナイトと火村シリーズ連載話


 また放置してしまいました!
 少し環境が変わったので忙しかったのもあるし、気持ち的な問題もあり、という感じでした。火村シリーズドラマ感想記事も10話まで土台が出来てるんですが、細かい部分で観返して書き直そうとか原作読み返そうとか思ってる間にあれよあれよとDVD発売まできてしまいましたね。ボックス買ったのでちょくちょく書いていきます。
 よくわからない空気に対抗するために自分に出来ることは言葉で戦うことしかないな、と……。
 あと原作に関する評論文もいくつか用意してます。最近ちょっと作家史的な発見をしてしまったのでまとめて書きたい。有栖川作品以外にも感想を書きたい小説映画等沢山あって困ってます。FEサイファの話もしたいです。文章を書く時間と集中力が欲しい……



 近況としては、今夏もE-pin企画さんのミステリーナイトに参加してまいりました。
ミステリーナイト2016|とり残された学園:ミステリーナイト公式サイト[Mystery Night]
 個人的には4年目の参加になります。前年はまさかの有栖川有栖回(!)であり、参加メンバーも今までになく多かったのですが、残念ながら納得のいく結果にならず悔しい部分があり。今年は4人での参加だったのですが、いつになくスムーズに捜査が進行、犯人もトリックも殆ど納得がいく状態で10分前に提出が終わる快挙で、なんと一緒に参加した後輩が最優秀新人名探偵賞をいただくまでになりました。感涙!
 まさか身内から受賞者が出るとは思っていなかったので本当にびっくりしました。おめでとうございます…… 全員で解いていったので、他のメンバーも数点差くらいだったのだと思いますが、これはもう来年自分自身も入賞狙うしかねえな!? と思ってしまいますね。是非来年こそ有栖川ファンの底力を見せつけたいと思います(笑)

 アダルティな(?)前年とうってかわり、今年は学園を舞台にした物語でした。閉ざされた男子寮に伝承と祟りというめちゃくちゃテンション上がるお膳立て。といっても過去の事件を回想する形なので(ミステリーナイトにはありがちですが)役者さんは割といつもの面子の方もいらっしゃったりしました。
 同行メンバーの間でも話が出ましたが、例年になく「怖い」話だったと思います。話の筋はきっちり謎が解けるミステリでありながら舞台という形でこうもぞわーっとする後味をぶつけてくるのか! と思いました。脚本・演出両面で非常に工夫を感じました。去年のプロジェクションマッピングが凄かったので今年はどうかな、と思っていましたが、全然面白かった!!!

 というわけで、同行してくださった皆さんありがとうございました。お手数おかけしてしまってすみません。来年もやるとしたらもう少しちゃんとやります(反省)
 ところでミステリーナイト大阪の会場って中之島のリーガロイヤルなんですね、中之島のホテルで謎解きなんて『鍵の掛かった男』じゃあないですか。いいなあ大阪!

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 ホテルメトロポリタン朝食バイキングといえばこのオムレツ。今年も美味しかったです。
 来年も楽しみにしております。


 ついでに火村シリーズ連載の話。
 ドラマ化で熱が上がったこともあり、リアルタイムで読ませて頂いてます『狩人の悪夢』。単行本待ちの方も多いと思うので、本筋のネタバレにならない程度にちょっと感想を。
 ミステリ部分については伏せるとして、これはかなり火村シリーズの転機になりえる作品になる予感がします。火村シリーズのひとつの転機といえば自分としては『朱色の研究』で、これは1995年という時代にブチ当たった本格ミステリの一つの苦悩と回答の物語だと思っています。今回はそういう時代的な転機とは少し違う、ドラマ化というターニングポイントなのかな、と。

 ドラマ版は観ての通り、原作版では継続していくシリーズものとしての制約がある部分を、1クールドラマという一定の終わりを予定された媒体に転化していくために、「火村英生の謎と決断(≒成長)」という筋を加えられたものでありました(もちろん、原作版にもその要素はあります。現状話を進めにくいだけで)。
 火村英生という探偵役の核とはすなわち「かつて限りなく殺人という罪に接近したが踏みとどまった」「だからこそ一線を超えようとする犯罪者を許さない」部分であり、火村シリーズの思想性である「人は誰しも犯罪者になりうる」(→『46番目の密室』冒頭)はその核に繋がる部分です。火村シリーズに出てくる犯罪者が良くも悪くも特殊な存在でないのは、そういったテーゼに基づくものでしょう。
 ドラマ版はその核に対し一つの思考実験を行いました。それは「火村の眼前に再び他の方法ではどうにもならない悪が顕現したとき、火村は人を殺そうとするのか?」という部分です。ドラマ10話と特別編を通して火村が辿り着いたのは、過去の自分とは異なる道、すなわち犯罪者を生かす道でした。原作でも『女彫刻家の首』(『スイス時計の謎』収録)ラストなど、「犯罪者を生きて法の裁きに引き摺り出す」ことを重視しているのはわかりますが、では過去の再演となったとき、火村は果たしてどんな選択をするのか? というのがポイントだったと思います(これに関しては原作でも気になるところです)。ドラマ版の火村が選んだ道は「過去の自分と同じ轍は踏まない、ただしそこで終わりではなく、自身の『殺意』という怪物には一生を懸けて付き合っていく」というほぼ完璧なアンサーでした。

 この「選択」は火村シリーズの裏テーマの一つでないかと最近考えているので別の機会に文章にしたいのですが、それはさて置いて。そうした火村の「選択」を主軸に据え、さらにまさしく火村の「二択を拒絶する第三の選択」が核となる『ロジカル・デスゲーム』を最終話に持ってくる慧眼には驚かされましたが、では翻って原作はどうか。前述の通り、原作版で火村の闘うべきテーマに対し、ドラマ版は一つの答えを見出しました。物語とはすなわち現実に対する解釈であり、ドラマ版自体が原作版に対する一つのアンサーとなりえる展開といえます。
 自身の突き詰める問いに対し一つの答えが出たことを、有栖川は真摯にも受け止め、更なる答えを返すべく始まったのがこの『狩人の悪夢』ではないか――というのが、自分が受けた印象でした。

 題名から同様の印象を受けた方も多いと思われますが、『狩人』は犯罪者を狩る火村自身のこと、『悪夢』とは殺人の悪夢を思わせる題名からしてクリティカルです(『鍵の掛かった男』が梨田と火村のダブルミーニングであったように、『狩人の悪夢』はナイトメア・ライジングと火村のダブルミーニングになるのでは)。実際に作中で既にその辺に触れられており、更に火村自身の危うさに突っ込んだ話になっているので、個人的には「狩人が獲物を狩るのは目的か手段か=火村にとって目的と手段が逆転してきてないか?」の話になってくるのではないか、と考えています。火村シリーズとしても、ミステリにおける名探偵論としても重要な問いではないでしょうか。
 そう考えて読むと白布施の設定も「『46番目の密室』の真壁の反転かなぁ」と思わされたり。

 直接ドラマ版のネタを拾うこともできただろうに、そうした表面的なやり方でなく(それっぽいのもありますが)核を尊重した形での「答えに対する答え」としての『狩人の悪夢』だとしたら、有栖川はやっぱすげえよなあ……エレガントだなあ……と思います。