幻想俯瞰飛行

生存記録を兼ねて長文を書くためのブログ。文章読んだり書いたりします。 

近況記録

卒業論文の追い込みの時期に、ふと息抜きにと思って『パラダイス・クローズド』を買ってから一気に読んでしまい、それ以降汀こるもの作品にハマっています。タナトスシリーズは現在『赤の女王の名の下に』まで、それと『完全犯罪研究部』を読みました。
メフィスト賞らしい作家というか、サブカルネタやネットスラングアクアリウム薀蓄を存分に塗しつつ、どこかひねた目線で語られる独自の哲学がツボです。ひねているんだけど、この手の作品には珍しく割と根っこのところでは真っ直ぐな思想を持つ作家だな、という印象。読書メーターでも勢いに任せて書きましたが、『フォークの先、希望の後』の「生き汚くても、恥を晒して罪を重ねてもいいから、とにかく生きろ」というメッセージの強さは本当に心動きました。本を指して「泣ける」という評はあまりよくないとは思うのですが、この作品に関しては本当にこみ上げるものがあった。これは10代に響くメッセージだと思う。中学だか高校だか忘れましたが、自分にも思春期らしく精神的に滅入っている時期がありまして、そのときに西尾維新の『ヒトクイマジカル』を読んで「とにかく生きろ」というメッセージにいたく感動して泣いてしまったことがあって、それを思い起こさせました。うーん、まだまだ感性が10代から成長していないのか……?

有栖川有栖原作の観客参加型ミステリーイベント『動物園の暗号』に参加してきました。同じく有栖川ファンの人たちと一緒にどんなもんかな、という感じで。
原作である『ロシア紅茶の謎』収録の『動物園の暗号』は一応既読だったのですが、全く読み返さずものすごい軽い気持ちで参加。こういう謎解きイベントは、昨年のミステリーナイトで初めて体験し(そして思いっきり犯人を外し)面白さを知った初心者でしたが、今作も非常に楽しめました。『動物園の暗号』をご存じの方なら判ると思いますが、わりと「アレをどうやって舞台化&謎解きゲーム化するの?」という部分がある作品だと思います。が、舞台に関してはそこをうまく演出の妙でアレンジしていたように思います。原作既読者でも楽しめる舞台でした。
基本的に関西方面で活動されている劇団のようなんですが、今回のように東京でも公演してほしいなあと思います。過去には『ブラジル蝶の謎』『スイス時計の謎』といった自分の好きな作品も公演されていたらしく、そっちも東京で是非観てみたいですね。こういうイベントはどのような方が参加されているのかまだよく判らないんですが、今回に関しては関西から遠征してきている謎解きイベント好きの方がいらしたりしていて、おおこういうイベント自体が好きな層が厚いんだな!というところに驚いたり。そういえばミステリーナイトも常連強しという感じでしたね……。
原作、というか、火村シリーズの(有栖川作品全体の?)特徴であるインテリジェントでウェットな感じは抑え目で、舞台映えするようなコミカルでテンポの良い劇にアレンジされていますが、それが許容できる有栖川ファンの方なら本当に観に行って損はないと思われます。劇団の方々の愛を感じる舞台です。レギュラーキャラクターのキャスティングのイメージもぴったりです(特に火村の謎解きの場面の畳みかけるような喋りは本当にイメージ通りの名探偵で感動した!)。次回公演の暁にはぜひ。

・帰省の際に叔父(自分がミステリ好きになったのはこの人の蔵書が原因)からいろいろ本を頂く。西澤保彦等々。読みたかった『化学探偵Mrキュリー』があるぞ、と思ったらいきなり2巻じゃねえか! 読みます……

・『野性時代』掲載の有栖川有栖の短編『ショーウインドウを砕く』読みました。久々の倒叙モノですかね。犯人視点ならではの緊迫感あるお話でした。相手の虚を突いて戦略勝ちする系の話もこのシリーズの設定ならではで結構好きです(モロッコ水晶とかもその部類に入る? あれは評価が分かれていますが、個人的には「嘘つき村と正直村」的な話だと思っています)。最後の場面は本当にゾッとする終わり方で、らしくて大好きな後味でした。
「あなたが欲しいものは何ですか」に対する、「何もいらない」を超越した非人間的な回答とはなんなんだろうなあ、と考えて、「何も欲しくないし、むしろ全部消えてしまえ」じゃないのかなあ、というところに行き着いて、さらに背筋が凍る。
完全な性格破綻者でもなく、アンチ「名探偵」でもなく、あくまで元来からの探偵役のフォーマットに則って、倫理観や秩序規範を破ることなく現実味のある人物造形をしながらも、「犯人よりも恐ろしい歪みを抱える名探偵」をやってのけてしまうのがこのシリーズの怖いところ。リアリティがあるからこそ……。

・というわけで、今年のミステリーナイトも参加してきます。去年は惨憺たる結果だったので、今年は犯人くらいは当てたいなあと思うのですが……どうなることやら。